真鍮で、つなぐ

新しいのに、どこか懐かしい。
金属なのに、なぜかあたたかい―

銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金の
ひかえめな光沢に秘められているのは、
使いこむほどに増す味わいの可能性。

人の手に触れられ、
空気にさらされることで
表面が酸化し、独特の風合いが出る。
人や場所に馴染んでいく。
真鍮という素材本来の美しさを、
人の手が、その場所が、育てていく。

共に年月を重ねる愉しみも、
大切に育てていく悦びも、
穏やかな変化を愛でる豊かさも。
さりげない輝きを放ち続ける
真鍮とともに、ずっと。

真鍮。それは、
経年“変化”を
愉しむ素材。

1965年の創業以来、私たちは常にお客様の満足を追求し、オーダーメイドによる製品開発とご提案を行ってまいりました。それはつまり、単なるデザインの提供ではなく、お客様のご要望と真剣に向き合い、確かな技術で応えること。一つひとつの建築を想うこと。その中で、お客様が思いつきもしなかった素材を提案させていただくことも珍しくありません。たとえば、滋賀県彦根市に建設中の競技場(仮称)には、当社の真鍮製のドアハンドル・レバーハンドルが採用されました。なぜ、競技場に真鍮なのか?真鍮が秘めた魅力とは?競技場を設計された建築士の方にお話を伺いました。

INTERLOCUTOR:ARCHITECTONO × JUKENSAKAMOTO

時間を経て、価値が増す。
「和の理念」をもつ競技場へ

今回設計されるにあたって、大切にされてきた想いやコンセプトをお聞かせください。

競技場の立地が彦根城のお膝元ということで、大前提として、やはり国宝である彦根城との景観的・理念的な調和は必要だろうと考えました。和の景観、もっと言うと「和の理念」をもつ競技場にしたかったんです。そこで取り入れたのが、外壁の格子ルーバー。周辺の景観との調和を目指し、ルーバーを下見板張り風に設置しようと考えました。では、その素材をどうするか。先方といろいろ話していく中で、極力メンテナンスが要らないもの、和の景観に馴染むもの、そしてコストがあまりかからないもの。この3つが大きなポイントとなりました。いろいろな素材を検討したのですが、コストと風合いが合うものというのがなかなか難しかった。そこで、コールテン鋼を提案してみたんです。

ずいぶん思いきりましたよね。

言ってしまえば「錆びた鉄板」ですからね。でも普通の鉄板とは違って、表面を酸化被膜で覆ったコールテン鋼は、内部までサビが進行しない。非常に安定した状態で、強度もある。それに、かつて同じ場所に架かっていた百間橋のイメージともピッタリ合うんです。これらを踏まえて先方に提案すると、意外にも受け入れてくださって。イニシャルコストが抑えられるし、長い目で見るとランニングコストもかからない。メンテナンスフリーの観点に、かなり興味をもっていただけました。

それでも、建築や素材に精通されていない方に、コールテン鋼やサビの良さを理解してもらうことはハードルが高かったのでは。

そうですね。先方には建築に詳しくない方ももちろんいて、やはり「要は錆びた鉄板でしょう?」「これ本当に大丈夫なんですか?」という意見も出ました。それでも理解していただけたのは、彦根城があったから。彦根城でも、扉などに鉄の素材が使われています。そしてそれが錆びて錆びて錆びて、非常に安定して真っ黒になっている。これってまさに、時間の経過が作りだしたプロダクトなんですね。時間の経過を伴って、今がある。彦根城のその事実が、一番の説得材料になりました。出来たときはピカピカで綺麗。それはもちろんいいことなんだけれど、エイジングを積み重ねていくことでより価値が出たり、より風合いが増していく。そういうものにこそ、和の良さがあるんじゃないかと思っています。

コールテン鋼製のルーバー670枚は、現場で1年間曝露させる。太陽の光や雨がまんべんなく当たるよう、一枚ずつ定期的にクレーンで吊り上げ、位置を入れ替えるという手間のかけようだ。

約1年近く曝露させたルーバーはずいぶんと風合いが増し、重厚感が感じられる。これもさらに50年ほど経過すると、真っ黒になるという

ドアハンドルは、
人間と建築の唯一の接点

同じ価値観を持ち、
無理難題を超えてくる
頼もしさ

ドアハンドルを真鍮でオーダーいただいたのも、時間をかけることでより良くなるといった「和の理念」の観点によるものですよね。

そのとおりです。工業化の社会って、いかに均一な製品を全国に届けられるかという観点が大切なんですね。完成したときも、5年後も10年後も15年後も、変わらないことが一番良い。逆に言えば、汚れたり傷が付くと価値が下がっていく。それってなんだか疲れません?そうじゃないものを何か作りたいなという思いがありました。そこで、ある時ジュケンさんに、こういう案件があって…とお話ししたら、「真鍮なんてどうですか。素地で使えますよ」と返ってきた。初めは半信半疑だったし、「素地じゃまずいでしょう」なんて言っていたんですが、考えてみれば、昔行った音楽ホールの取っ手が真鍮だったな、触るところがツヤっとしていたな、なんて思い出してきて。ドアって、何かと何かの境界面なんですよね。たとえば、選手の方が更衣室から出て、ドアを開いてフィールドに上がる。ドアを開けるということがひとつの体験になり、気持ちを切り変える瞬間になる。そういうときに、少しノイズのある、素材感のあるドアのほうが記憶に残るんじゃないかと考えました。それに、建築で人が実際に触れられるところってあまり無いんです。壁を積極的に触る人っていないでしょう?天井は触れないから、見るだけ。でも、ドアハンドル・レバーハンドルには必ず触りますよね。いわば人間と建築の唯一の接点。そこにきちんと意味のあるものを使いたかった、というのもあります。

よく採用してくださったと思います。こういうチャレンジをしてくださる方に出会えて、当社としても嬉しい限りです。

ジュケンさんに「外壁のルーバーにコールテン鋼を使う」と話したとき、すごく喜んでくださいましたもんね。「すごいなあ、すごいなあ」「よくやった」って、まるで母親みたいに(笑)。それくらい、コールテン鋼を使うことに対して良き理解者でいてくださって。今はまだ途中段階で、時間の経過と共に今後どういう風合いになっていくのかは未知数ですし、おそらく100人いたら100人ともが「良い」とは言わないでしょう。もしかしたら40人とか50人は「えー!?」と言うかもしれません。でも、「えー!?」となること自体が大事。そうなったらある意味成功かな、と思っています。真鍮製のハンドルにしても、「何アレ?いいの?錆びてるんじゃないの?」と言われれば成功(笑)。触れる人に強い印象を残すプロダクトになってもらえればと思います。

みなさんにびっくりしてもらいたいですよね。これは仕上がりじゃないんじゃないの?と思う方がたくさんいたら、しめしめというか(笑)。

そうなんですよ。そうそう、ジュケンさんはこんなふうに、私の価値観に共鳴してくださるというか、モノの本質の見方が似ているのも心地いい。既製品のハンドルでもよかったのでは?という声があるかもしれませんが、今回の設計対象は、一見私たちの生活には無関係なようにも思える競技場。これを設計するにあたって、人間と建築の唯一の接点であるハンドルにグッと力を注いでデザインすることで、もう少し血の通った感じのものを作りたいという思いもあったんです。ジュケンさんとなら、その思いを実現できるだろうと考えました。

そんなふうに言っていただけるなんて、ハンドル屋冥利に尽きます。

私たち設計士にももちろんこだわりはあるんですが、それは「建物をつくる」という大きなビジョンにおいてのこと。私たちだけの力で何かを作り込むことはなかなか難しいので、まず価値観が合う、同じ方向に向かって一緒に走っていける人やメーカーさんにチームに入っていただくことはとても大切。そういう意味で、ジュケンさんは任せられる存在なんです。無理難題を言っても、「もっとこんなことできますよ」「こんなものもありますよ」と想像を超える提案をしてくださるし、サンプルもすぐに作ってくださる。無理難題を無理難題と思っていないというか(笑)。これからも頼りにしています!

製品一覧

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